昨年、ここに引っ越してくるときに荷物を整理していてそのフライヤーを見つけた記憶があるんですが、また何処かに行ってしまいました。そのフライヤーというのは、
カラフトはその当時からアブストラクトな音を捉える感覚に秀でた存在でした。アブストラクトというといろいろ語弊があるかもしれないですが、つまりこういう意味です。当時の僕らがヒップホップから(結果的に)はじき出されてしまったインストのビート(アブストラクト・ヒップホップと蔑称のように言われたものです)を好んで聴いていたときに、カラフトは全然違う入り口から入って来たにもかかわらず、僕らととても近しい音の捉え方と聴き方をしていると感じられたからです。それが一つはっきり形となって顕れたのが、Maskというパーティでした。カラフトとそしてタロウくんがレジデントDJを務め、幅広くいろいろなゲストを招き、フリーフォームなスタイルで、しかし一本筋の通ったライナップを実現していきました。そのパーティを称するのに適切な言葉があるとすればやはりアブストラクト、ということになるのだと今も思います。先のNugroundの代わりにこのMaskのフライヤーが見つかりました。2000年12月28日のMask@Yellow。ゲストはDJケンセイとコンピュータ・スープでした。

そして、Maskから生まれたと言えるミックスCDが2000年リリースの『KARAFUTO DJ MIX 1/2』でした。Flangerから始まるこの2枚組CDには、リョウ・アライやヤベ・ミルクやチャイルズ・ヴューなどのトラックもフィーチャーされていました。正確な意味でフリーフォームでアブストラクトな内容でした。あれから6年が経ってリリースされるカラフト名義のミックスCDが『Shift to the other time〜』です。聴いていただければ分かるように、このミックスCDは、6年前とは違って、ほぼ同じBPMの4つ打ちベースのトラックばかりが並んでいます。それは当初の僕らの希望だったのかというと、そういうわけではありませんでした。
今回のミックスCDの依頼をした当初は、カラフト名義でのミックスをお願いしたいという漠然としたものしかありませんでした。フミヤくんが聴かせてくれた近年ライヴ録りした膨大なミックス音源には、4つ打ちだけではなく、ポスト・ロック的なものや、ジャズ・グルーヴ、ブレイクビーツなども挟み込んだ音源もありました。おそらく、僕らがそういったサウンドを好むという配慮も働いていたのだと思います。しかし、6年前を彷彿とさせるようなそういったミックスよりも、今回の4つ打ちのみのミックスの方に惹かれたのでした。なぜ惹かれたのか、実は僕ら自身も分かっていなかったというのが正直なところです。しかし、フミヤくんから、かつて好んでいたアブストラクトなレコードの代わりに今はミニマルなハウスの音に惹かれるという話を訊いて、初めて合点がいったのでした。
Onsaでも扱っていないような12"ベースの音源が殆どで、トラック単位で聴いたのならまた違う印象を持つかもしれないのですが、今回のミックスに於いては音の背景こそが重要な役割を果たしていると感じます。音の選択、ミックス、エフェクト、そのバランスに込められたものこそが聴き所になっています。
今回のリリースは、6年前からさらに各々が違う軌跡を歩みながら、再び接点と言えるような場所を見出せた結果だとも思っています。まあ、こんなことは余計な裏の話ですが、こんな話をきっかけに、『Shift to the other time〜』に興味をもつ人がいてくれたら、それは単純に嬉しいことです。
改めて、発売日変更をお詫びいたします。